俺の青春と恋の話(中1〜中2まで)
[前回までのあらすじ]
楓に超変化球な告白した数ヶ月後くらいに楓から告白されるもパニくって台無しにする
小学校卒業を控えた3月11日、僕らは東日本大震災に見舞われた。内陸部に僕らは住んでいたため津波の被害はなかったが、それでも家がダメージ受けたりガス管が破裂したり停電したりとそれなりに被害を受けた。僕はこの地震によって今までの日常が全部壊れ、映画とかでよく見る荒廃した世界で生きていくことになるのかもしれないと思っていた。つい1ヶ月前に思い描いていた中学校生活を過ごせず、さらに友達や楓もみんなバラバラに散って、もう会えなくなるんじゃないかととても不安だった。
しかし、そんな不安は杞憂に終わり、4月には何とか中学校に入学することができた。そして、もちろん僕を含む新入生の中に楓の姿もあった。こうして僕らの中学校生活が始まった。
楓と同じクラスがよかったが、残念ながら楓とは隣のクラスとなってしまった。しかし、体育などでは隣のクラスと合同で授業するため、楓との接触チャンスはそれなりにあったのは不幸中の幸いだった。また、楓とは家が近いこともあり、帰り道でよく会った。そんな時は「テストやばい」とか「部活大変だけど楽しい」だとか色々と雑談をしながら帰った。
ある冬の日、また楓と帰り道ばったり会ったため雑談しながら帰っていた。
「そういえば体育のマット運動カッコよかったよ」
この時体育ではマット運動をやっており、体操部である僕らは見本になったり先生から「好きなことやっていいよ」とのお墨付きをもらったので普通にバク転だとか宙返りだとか部活中と遜色ないくらいの動きをして文字通り無双していた。楓とは前述の通り体育の授業は一緒に受けていたため、楓は僕のことを見ていたのだ。
「お、おう、ありがとう」
少し照れながら僕は言った。
そんなこんなで2年生に上がった。このクラス替えで楓とは同じクラスでも隣のクラスでもなくなり、ほぼ完璧に関わりが途絶えてしまった。
ように思えたが、なんと楓は以前は演劇部に所属していたにも関わらず2年の春から体操部と同じく体育館を練習場所とするバドミントン部に転部したのだ。これには非常に驚いた。最初楓をバドミントン部の中で見かけた時は「他人の空似か?」と思ったが、何回も注意深く見てみるとやはり紛れもなくその子は楓であった。そこで僕は思わず話しかけた。
「転部したんだ」
「うん」
非常に短い会話だった。そしてこの2年の春くらいから楓との間に距離を感じる様になった。最初、この距離は何なのかよく分からなかったが、後々思春期によるものっぽいと思う様になっていった。そしてこのようにちょっと距離を感じながら過ごした2年夏休み前の部活中、ふと僕はあることに気づいた。僕の中学校の体育館の扉は面積で言えば半分くらいの広さで透明なエリアが存在する扉であった。ふと部活中にその扉の前に次に体育館を使う予定であったバド部が集まってるのに気づいた。バド部、つまり楓がいる部活である。だから僕は「楓いるかな〜」とちょっとチラッと見てみた。すると楓は扉からこちらをガッツリ見てた。
「マジか」
好きな人がこちらを見てる。これ以上に頑張らない理由があるだろうか?いや、ない。楓がこちらを見てる時、僕は通常の3割り増しくらい練習し、後輩にも熱心に指導した。
そして季節は夏に差し掛かった。ある日、ちょっと急ぎの用があって武道館から体育館に向けて走っていたら、水飲み場で水を飲む楓の姿が目に入った。体育館に向かうにはその水飲み場の側を通る必要があったため、「あ、楓じゃん」と心の中で呟きながら水を飲んでる楓の後ろを走り抜けようとした。すると水を飲み終わった楓がちょうど顔を上げてこちらに気づいた。そして、バッチリ目が合った。そのままお互い目を離さずに僕はスピードを緩めずに楓の側を走った。僕が楓の真後ろに差し掛かる頃、お互い同タイミングで「ニコッ」と笑った。そしてそのまま僕は後ろの楓に目もくれず、体育館に入っていった。
「なんだ、距離が出来たように感じてたけどやっぱ変わってないじゃん」
この出来事から僕は僕らの間にまだ好意がありそうだと感じた。
そして夏休みが終わり、季節は秋に差し掛かった。残暑がまだちょっと厳しいある日、僕は手洗い場で雑巾を洗っていた。
「よし、あとちょっと洗えば綺麗になるな」
そう思いながらゴシゴシ洗ってたら後ろから女子3人組の声がした。そしてそのうちの1人の声の主は楓だった。
「お、楓じゃん。こっちの手洗い場に来るなんて珍しいな」
そんなことを思いながら僕のすぐ隣に来た楓たち3人組をチラッと見ながら教室帰るかと思い、雑巾を絞ったその時だった。
「え〜、楓ちゃんって彼氏いないの?」
僕はその3人組の1人がその言葉を発した瞬間、蛇口を開け、雑巾を濡らし、もうすでに綺麗になったはずの雑巾を再度洗い始めた。洗いながら横を見ずにバクバクと高鳴る心臓を抑えながら必死に楓の次の発言に聞き耳を立てた。
「彼氏はいないよ〜」
その瞬間、僕はホッとした。
「でも好きな人はいるんだ〜」
「うおおおおおおおおおおおおおおおお⁉︎⁉︎⁉︎(心の中の叫び)」
その瞬間、僕の心の中のテンションは最高潮に達し、すでに綺麗な雑巾をこれでもかと擦りまくった。
「え〜、だれだれ〜?」
「秘密〜」
そんなことを言いながら楓含む女子3人組は手洗い場を離れて行った。そして僕は彼女らの声が聞こえなくなるまですでに綺麗になったはずの雑巾をこれでもかと洗いまくってた。そして、声が聞こえなくなると同時に雑巾を絞り、後ろを向いた。そこにはもちろん既に楓たちはいなかった。楓のクラスのことは分からないが、それでも夏のあの水飲み場での出来事や俺が部活やってる時に扉から覗いてくるなどの証拠をもとに考えると、楓の好きな人は俺である可能性が高いように感じた。
そう、「まだ」僕らは両思いなのだ
その確信を胸に、この日の部活の帰り道、僕は軽くスキップしながら帰った。
そして秋が過ぎ、冬を迎えた。相変わらず楓は部活の際に扉からこちらを見ており、その度に僕は頑張った。そんなある日、たまたまいつも家を出る時間より遅く家を出てしまった。遅く家を出たとは言え余裕で朝のチャイムまでには間に合う時間ではあった。
「明日からは気をつけよ〜」
そんなことを思いながら登校してたら、なんと通学路で楓を見かけた。そして驚くべきことに、楓の使っていた登校ルートは明らかに遠回りなルートであった。楓の家から中学校まで行くならその道を通る必要は全くなく、逆に信号を余分に通過するわかなり遠回りだわでわりとギリギリのこの朝の登校時に通るのは非合理的であった。最初は「友達に合わせてるのかな」と思ってたが、よく見ると楓は中学校に着くまで1人で登校してた。
「おや?おかしいぞ?」
僕の頭にふと疑問が生まれた。友達と一緒に来るため遠回りしてるわけではないし、わざわざ遠回りするメリットがない。しかし、この時ある可能性が頭に浮かんだ。それは
「僕に会うため遠回りをしている」
これが手持ちの情報を用いて出した解答の中で最も納得のいくものであった。実際、そのルートを通ると僕と少しではあるが登校ルートが被る。なぜ楓が僕の登校ルートを把握したのかについては何回か一緒に帰ってるため、その帰り道のルートをそのまま使ってると考えたからというものが考えられた。つまり、楓は僕と少しでも一緒にいたいと考えているかもしれない、そんな可能性が頭をよぎった。それからというもの、僕は以前より遅めに出て、楓と会話はしないものの同じ通学路を歩いた。
年も明け、3年生、つまり高校受験が目前に迫ってきた。そして僕は薄々と感じてはいたが、県外の高校を第一志望とすることになった。つまり、仙台での生活、そして楓と会えるのもあと1年しかなくなった。僕は決意した。
「3年生のうちに楓に告白する」