俺の青春と恋の話(小学4〜6年生まで)

[前回までのおさらい]

楓からバレンタインチョコもらった

 

ホワイトデーが過ぎ、終業式を終え、春休みに入った。春休みに入る前、楓は「この春休み期間はいろいろあって児童館行けないかも」と言っていた。そして実際そうで、春休み期間中はほとんど楓とは会わなかった。それでも楓から貰った手紙を読み返しながら、4月になり4年生になってまた会える日を楽しみにしていた。

 

4月に入り、4年生としての最初の登校日の前日。俺は夢を見た。その夢の中には3年の時に仲の良かった友人数名と楓が登場した。俺は目が覚めた後、これは何かの間違いだと必死に夢の内容を否定したくなった。なぜなら原理はよく分からないが俺はこの頃クラス替えがある時の前日に見る夢の中に登場した友達とは絶対に一緒のクラスになれないという一種の予知のようなものができていたからだ。

 

「嘘だ…楓と離れ離れになるなんて嘘だ…これはただの夢だ…3年に上がった時にこの夢見て、夢に出てきた友達がみんな違うクラスになったのはただの偶然だ…これはただの夢だ…」

 

俺はそう思いながら嫌な予感を抱えて4年生として初めて登校した。

 

外れて欲しかった嫌な予感はものの見事に的中した。残念ながら俺の予知夢は正確だった。俺は楓とは違うクラスとなった。ショックだった。

 

クラスが別になってからというもの、楓との仲は廊下ですれ違った時に挨拶するくらいのものとなってしまった。児童館は3年生で卒業するという決まりがあったため、楓との接点はほぼ皆無となってしまった。それでも俺は楓のことが好きなままだった。また5年生で同じクラスになれることを祈って4年生の1年間を過ごした。

 

5年生に上がった。俺の祈りは届いたようでまた楓と同じクラスになった。しかし、1年間離れていたのは大きく、楓との間には少し距離ができたように感じた。そしてこの頃から「ちゃん付け」「君付け」ではなくお互いを呼び捨てで呼ぶようになった。

 

1年間離れて距離ができたとはいえもともとかなり仲が良かったため、それほど仲が悪いというわけではなく、どちらかというとお互い1番仲のいい異性という認識だった。班が一緒になったり授業中や休み時間だったりした時は普通にいろいろなことを話していた。

 

そんなある日、小学生にとっては一大イベントとも言うべき席替えが行われた。この時の席替え方式は男女分かれて交互に出席番号順に好きな席を選んでいくというものだった。当たり前のことだが俺は楓の隣の席を狙っていた。そしてこの時、幸運なことになんと俺の番が回ってくる2〜3人前までの時点で楓の横の席は誰も座っていなかった。俺の心臓はバクバクと激しく鼓動し、顔はニヤけるのを抑えるのに必死だった。

 

「もしかしたら楓の隣の席になれるかもしれない」

 

そう思いながらただひたすらに自分の番が来るまで楓の隣の席が埋まらないことを祈っていた。

 

とうとう次が俺の番というところまで来た。まだ楓の隣の席は埋まっていない。俺は心の中で勝利を確信した。

 

「次は〇〇君」

 

俺の前の順番の友達が先生に呼ばれ、席を選んだ。そいつはなんとあろうことか楓の隣の席に座った。

 

「…え?」

 

なんと直前の直前で楓の隣の席は埋まってしまったのだ。つい数分前まで激しく鼓動していた俺の心臓はスンと一気に静まり返り、必死に抑えないとすぐ上がってしまう口角は今や何もしなくとも下がったままであった。あんなに熱かった顔の熱はどこかに消え去り、「期待」は「絶望」へ、そしてその友達への「怒り」へと変わった。俺の番が回ってきた時、俺は少しムスっとした感じで適当な席にドカッと座った。もはや楓の隣でなければどの席でも同じだと思えた。

 

「あれ?あゆと君、前も私の隣だったことあったよね?」

 

隣の席の女子が言った。そんなこと忘れるくらいに絶望と怒りで軽く我を忘れていた。

 

そんなこんなで秋になり、5年生の一大イベント:野外活動が迫ってきた。野外活動は3日間行われるが1日目は楓とは別の班となってしまったが、2日目は同じ班で行動することになった。そして2日目の夜にはキャンプファイヤーを5年生みんなで囲んでマイムマイムを踊ることとなっていた。なんとこのマイムマイムで俺の左側には楓がいることが判明した。楓の隣にいれる。この事実がわかった時とてもドキドキしたのを覚えている。

 

野外活動前に体育館でマイムマイムの練習を行った。楓が隣にいるだけでもう幸せだった。そんな時、先生は言った

 

「はーい、では隣の人と手を繋いでくださいねー!」

 

「…え?」

 

この時マイムマイムとはどういうものなのか全く知らなかった。ただキャンプファイヤーの周りで踊るだけだと思ってた。しかしどうやら隣の人と手を繋ぐ振り付けがあるとのことだった。

 

「嘘…だろ…」

 

心の中でそう呟いた後思わず楓の方を見た。楓も「本当に?」みたいな驚きと困惑の表情を浮かべながらこちらを見ていた。俺は手をズボンでゴシゴシ拭いた後楓の方に恐る恐る手を出した。楓も手を出し、俺たちは無言で互いの手を見つめ合いながら近づけて、そして手を握った。楓の手は柔らかく、少し暖かく、そして少し湿っぽかった。手を繋いだままマイムマイムを踊ったがはっきりいうとマイムマイムなど踊ってる場合ではなかった。心臓はバクバク音を立て、顔は耳まで熱くなり、頭の中は興奮と緊張と歓喜で何も考えられなかった。ひたすらにニヤけるのを抑えるので精一杯だった。恥ずかしくてとてもじゃないな楓の方を見ることなんて出来なかった。

 

マイムマイムを踊り終わった後、俺たちは静かに手を離した。俺は恥ずかしくて楓の方を見ることができなかった。ただ、左手には楓の手の温もりと感触がしっかりと残っていた。

 

これが俺の覚えている中で1番最初に楓と手を繋いだ記憶である。

 

そしてとうとう野外活動が始まった。初日は登山だが楓とは別の班であったため会話は全くなかった。そして2日目、この日はオリエンテーションで少年自然の家の周囲に隠されたひらがなを見つけ出すみたいなことをやった。それと同時に俺たちにはもう一つミッションが与えられた。それは3日目の色紙に落ち葉を貼ってオリジナル色紙を作るという活動に必要な綺麗な落ち葉を数枚取ってくるというものだった。俺はこのことを聞いた時、絶対に綺麗なもみじの葉を使おうと決めた。

 

そしてオリエンテーションが始まり、俺たちの班はいろんなところをうろうろして平仮名を見つけようとした。一方俺はというと平仮名探しには全く興味なく、そちらはほぼ班員に任せっきりで俺は班員の後ろをついていくだけで、落ち葉拾いの方に集中していた。綺麗な落ち葉は2枚見つけた。しかし綺麗なもみじの葉だけはどうしても見つからず、もみじを拾っては捨て、もみじを拾っては捨て、拾っては捨て、拾っては捨てをひたすらに繰り返していた。そんな様子を見ていた楓が言った

 

「ねえ、あゆと。あゆとってさ、なんでもみじばかり拾ってるの?」

 

俺は言うしかないと思った。俺は足元にたまたま落ちていたもみじを1枚拾い上げ、茎のところを持って指でくるくる回しながら言った

 

「なあ、知ってるか?楓。もみじってさ、木の名前じゃないんだぜ?葉っぱの名前なんだぜ。このもみじのなる木の名前ってさ、楓って言うんだぜ」

 

そう、俺は綺麗なもみじ、つまり楓、君を色紙に閉じ込めたかった。だから俺は綺麗なもみじをずっと探していた。そしてこれはもはや告白だ。非常に遠回しではあるがもはや告白であった。

 

「ふ〜ん」

 

楓はそういうとまた前を向いて歩き出した。俺はというと「まあ、伝わらんよな」と思いながら手でいじっていたもみじを放り投げて楓たちの跡を追った。そして、最終的にとびきり赤くて綺麗なもみじを俺は見つけることができた。

 

そしてその夜、キャンプファイヤーの時間がやってきた。しかしこの直前、友達の1人が「〇〇さんの近くにいるのやだ〜‼︎」と突然ゴネ出し、しょうがないのでマイムマイム始まるまでそいつと俺の場所を交換していた。

 

「いいか、マイムマイムの時は戻るんだからな」

 

「わかったよ〜」

 

そう言いながら1列でキャンプファイヤー会場に向かった。ところがキャンプファイヤー会場に着いていざ元に戻ろうとしたら

 

「やっぱ〇〇さんと手を繋ぐのやだ〜!」

 

と言い出した。

 

「おいちょっと待て約束と違うだろ‼︎とっとと変われ‼︎」

 

「だって〇〇さん僕と繋ぐの嫌だとかいうんだもん〜」

 

「うるせえ‼︎約束は約束だいいから変われ‼︎」

 

「え〜…」

 

どうにかして変わろうとした瞬間

 

「そこ!何やってるの⁉︎変わるのなら早く変わりなさい‼︎」

 

先生に怒られてしまい、変わるタイミングを逃してしまった。そして結局楓の隣に行けないままマイムマイムは始まってしまい、楓とは手を繋げなかった。

 

3日目の色紙作成もうまくいき、こうして野外活動は終わった。この野外活動以降も楓との中は変わらず良かった。

 

「ほぼ告白したようなもんなんだけど楓には分からなかったか〜…」

 

そう思いながら数ヶ月過ぎた頃。楓とはまた同じ班であったため、掃除当番も一緒であった。みんなが先帰り、俺と楓の2人で後片付けをして、前日に見たバラエティ番組の話をしながら廊下を2人で歩いていた。ある程度話してネタが尽き、しばし沈黙が俺たちの間を流れた。楓のそばは居心地が良いため、この沈黙もそこまで苦ではないからそのままお互い何も話さず歩いていた。その時当然楓は俺の方を見て微笑みながら沈黙を破った。

 

「好き」

 

突然の出来事に俺の頭の中は全て吹き飛び真っ白になった。あまりに衝撃的なその言葉は俺の思考の全てを奪い、フリーズし、何も考えられなくなった。多分人生で1番頭が真っ白になったのはこの時だと思う。頭が真っ白の状態で1秒ほど過ぎ、やっと頭が再起動を始めた。しかし、再起動した頭の中を占めていたのは「混乱」だった。

 

「…え⁉︎今なんて言った⁉︎好き⁉︎好きって言ったよね⁉︎確かに⁉︎え⁉︎好き⁉︎マジで⁉︎え⁉︎楓が俺を好き⁉︎⁉︎え⁉︎え⁉︎俺も好きなんだけど⁉︎え⁉︎両思い⁉︎⁉︎え⁉︎マジで⁉︎⁉︎え⁉︎」

 

混乱の極みである。それは仕方ない。昔からずっと好きだった子に当然好きと言われたのだからこうなるのも無理はない。こんな混乱した状態でさらに1秒経過し、少し頭は落ち着きを取り戻し始めた。

 

「え⁉︎楓が俺を好き⁉︎嘘⁉︎嘘でしょ⁉︎嘘かな⁉︎いや楓結構嘘つくの得意だしいやでもどうなんだろう嘘なんかな」

 

そう考え込むことさらに1秒。そうして俺の口から絞り出した言葉は

 

「…嘘でしょ?」

 

これのみであった。俺としては「本当に?」みたいなニュアンスで発したつもりではあったが、言葉選びが絶望的にアウトであった。これのみだと「俺のこと好きっていうのは嘘でしょ?」とも取れてしまう。ここで弁解をすればよかったのだが、俺は混乱の極みであったため、この一言を発するので精一杯で「嘘でしょ?」と言った後、また互いの間には沈黙が横たわった。そしてそのまま教室に入り、互いの席に向かった。

 

翌日以降、楓との仲には変化はなかったが、どちらもこの出来事に関しては触れなかった。そうして5年生が終わり、6年になった。6年でもまた楓とは同じクラスになり、5年の時と同じような感じで1番仲のいい異性として過ごしていった。

 

5年のあの時、もし「俺も好き」と答えていれば俺と楓の関係はもっと特別なものとなっていたのかもしれない。今とはもっと違う結果になったのかもしれない。もはや終わってしまったことだから取り返しがつかないのはわかっている。でも、どうしてもそう思ってしまう。あの時、「俺も好き」と答えていれば、楓と付き合うことができたのじゃないか。未だにそう思って止まない。

 

これが俺の人生においてたった2つしかない「後悔」のうちの1つである。