俺の青春と恋の話(保育園〜小3まで)

前回の復習:転園した先の保育園で俺は楓と会い、一目惚れをした

 

 その保育園に通い始めてからというもの、俺は楓が遊んでるところによく混ぜてもらい、一緒に遊ぶようになった。楓はよくおままごとをして遊んでおり、この頃の俺は今とは違ってそこまで運動が好きではなかったため、室内でよく一緒におままごとをしていた。

 楓と一緒に過ごしているうちに楓の家が俺の家からかなり近いということが分かった。徒歩数分でたどり着ける距離だった。好きな人と家が近いというのはなかなか嬉しいものだった。

 

 そうして一緒に過ごして1年が経ち、俺らの家は同じ学区であるため必然的に同じ小学校に入学することになった。そして俺と楓は同じクラスとなった。さらに俺も楓も放課後は児童館に行っていたので、最初のうちはクラスでも児童館に向かう時でも俺たちは基本一緒に行動していた。俺たちは児童館に行っても変わらずおままごとをして遊んでいた。時々常に一緒にいる俺たちをからかう声もあったが、特には気にせず一緒にいた。一緒にいることが嬉しく、そしてとても居心地が良かったからだ。

 

 しばらくして楓にもクラスの友達ができ、俺にもできたためクラスではあまり一緒に行動しなくなった。しかし相変わらず児童館に行くときは一緒に行っていた。そこではいろんな話をした。

 

 ある日、楓は俺にこう言った

「ねえ、あゆと君。いつも帽子かぶってるけどさあゆと君ってどういう風な被り方が似合うんだろうね?」

「確かに。いつも僕つばを前にして被ってるけど、他の被り方も似合うのかな?」

「ちょっと私が見とくから被り方変えてみて!」

「分かった」

そうして俺はつばを横にしたり後ろにしたりまた前にしたりといろんな被り方をして楓に見せた。

「う〜ん、やっぱりあゆと君はつばを前にして被った方が似合うね!」

「そっか、なるほどね」

俺は内心これから一生帽子はつばを前にして被っていこうと決めた。

 

 2年生に上がるときはクラス替えがなかったため必然的に楓とまた同じクラスであり、児童館へもまだ通っていたため1年生と同じく児童館に向かうときは一緒に向かっていた。また1年生の時と同じく他愛のない話をしながら児童館に向かっていた。そしてそんなある日楓はこう言った。

「ねえ、あゆと君。あゆと君って、好きな人、いる?」

とてつもなくドキっとした

「え⁉︎いや、まあ、いるっちゃいるけど…」

「え⁉︎誰⁉︎誰⁉︎」

君だよ、なんていう勇気はなかった

「いや、まあ、それは、その…」

「同じクラスの子?」

「うん」

「じゃあクラスの中で好きだと思ってる子第5位から教えて!」

「ええぇ…」

内心動揺しっぱなしだった。好きな人から好きな人いるかと聞かれたのだから。しぶしぶ特に好きじゃないけど可愛いかなと思う子を4人ほど上げた

「で、第1位は⁉︎」

楓はキラキラした目でこちらを見つめていた

「え、え〜と…〇〇ちゃん」

ここで俺はクラスで2番目に好きな子の名前をあげた

「ふ〜ん、そうなんだ〜」

楓は少しガッカリしたような声でそう言った。というか言えるわけないだろう。1番好きなの君だって。2番目に好きな子の千倍は楓のことが好きだって。1位の遥か上、もはや殿堂入りレベルのところが君の順位だなんて。

そんなこんなで俺らはまた1年間、他愛のない話をしながら、思いを伝えないまま児童館に向かう道を歩き続けた

 

 そして俺らは3年生となった。この時俺の弟が小学校に入学してきた。俺のブラコンぶりはこの頃もすでに健在で、弟が入学して以来登校も下校も児童館へ行くときもあらゆる場面でずっと弟と一緒にいた。そのため、楓とはクラスで話したり児童館で少し遊ぶ程度になってしまった。それでも楓との仲はかなり良かった

 

 そして年が明け、2月になって、バレンタインデーを迎えた。一昨年去年と楓からはチョコを貰ってないので今年もどうせもらえないだろうなぁなどと思いながら弟と一緒に登校した。教室に入り席に着き、ランドセルを開けて教科書等を出して授業の準備をしていたら、楓が俺の席に来た。

「ねえ、あゆと君。放課後、ちょっと、いい?」

「え?う、うん…」

「ありがとう!じゃあ放課後ね!」

俺はよっぽどのバカではないし今日が何の日かもしっかりと分かっていた。間違いない、これは楓からチョコもらえる。つまり、楓は俺のこと好きなのかもしれない。そう思った。その日の授業はとてもじゃないが全く集中できず、しかし時間はあっという間に過ぎて放課後となった。俺はその週掃除当番じゃなかったので楓の班の掃除が終わるまで廊下でブラブラしていた。途中弟が来たので「兄ちゃん、ちょっと用事あるから先行ってて」と言って弟を先に児童館に向かわせた。期待と嬉しさを抱え、にやけるのを必死になって押さえ込み、心臓をただバクバクさせて待った。顔がかなり熱かった思い出がある。掃除はなかなか終わらず、実際はそこまで時間はかかってないと思うが、体感時間的には何時間も待ったような気がした。

「おまたせ」

「お、おう」

掃除が終わって楓が帰りの支度を終えて俺のところに来た。

「はい、これ」

そう言って楓は俺に紙袋を渡してきた。

中を見るとハート型の容器が入っている。間違いない、チョコだ。受け取って紙袋の中を見た後俺は楓を見て、楓も俺をずっと見てて、お互い目があって恥ずかしそうに笑った。とんでもなく嬉しかった。多分この瞬間は人生の中でトップクラスに幸せだった。好きな人からチョコがもらえたのだ。はっきりいうと嬉しいどころの騒ぎではない。しかしこの時俺は1つ問題を見つけた。「このまま持ってたら学校の先生や児童館の先生にバレて取り上げられてしまうんじゃないか」

ランドセルはすでにパンパンでとてもじゃないがチョコを入れる余裕はなかった。そこで俺はその日が金曜日であることを利用し、上履き入れの奥底にチョコを隠し、その上にさらに物を詰め込んで隠し、肝心の上履きは持ち手輪っかに通して、この状態でチョコを運ぼうと考えた。

 

 その後2人で児童館に行った。気恥ずかしさのためかお互い口数はあまり多くなかった。でも幸せで何も言わなくてもこのまま一緒にいるだけで十分だった。

「なあ、これ(持ち手の輪っかに上履きをぶっ刺してある上履き入れ)バレるかなぁ」

「大丈夫だよ、きっと」

そんな会話をしながら、あまり喋らず、とうとう児童館に着いた。

「どうしたのそれ?」

児童館に入った瞬間先生に予想通り上履き入れのことを聞かれた

「いや、ちょっと今日持って帰らなきゃいけないものが多くて、でもランドセルには入りきらなかったのでこれに入れたんです」

「ふ〜ん、そっか」

そういって先生は去っていった。俺は思わず楓を見て、楓も俺を見てお互い「やったね!」と言わんばかりに笑った

 

その後無事に家までチョコを持って帰った。夕飯を食べ、風呂から上がってすぐそのチョコの容器を開けた。中にはハート型のチョコが何個か入っていた。とても美味しそうだった。チョコを食おうとしたが、何かとてももったいない気がして結局賞味期限ギリギリまで食べなかった。

 

1ヶ月が経ち、ホワイトデーを迎えた。俺は楓にお返しをあげた。キーホルダー付きのクッキーをあげた。そしてこの時は児童館ではなく普通に2人で一緒に家に帰っていた

「ねえ、あゆと君。チョコ、美味しかった?」

「え?あぁ、うん、美味しかったよ」

嘘だ。この時点でまだチョコの賞味期限はきてなかったので食べてはいなかった。本当にあまりにもったいなくて食べてなかった

 

その後、楓からはホワイトデーのお返しにと手紙をもらった

「家に帰ってから読んでね」

そう楓が言ったので律儀に守り、家に帰って夕飯を食べ、風呂から上がった後、両親には内緒でこっそりその手紙を読んだ。そこにはクラスのヒーローヒロインとかいう朝の会の時とかに1人1回くらいやるコーナーで俺を紹介しなかったけど色々とカッコよかったということ、俺が4年生からピアノ習うからピアノ教えて欲しいということ、これからも仲良くしてねということが書かれていた。好きな人からもらった初めての手紙。俺はとても嬉しく、幸せでこの手紙を大切に保管した。

 

その後やっと俺は楓からもらったチョコを食べた。そのチョコはどうやら少し大人向けなようで、いつも食べてる甘ったるい板チョコとは違く、少しほろ苦く、そして甘く、とても美味しかった。好きな人からもらった初めての本命チョコ。あの味は今でもしっかりと覚えている。